千葉県内に本拠地を置く国立大学法人として知られる千葉大学。約6,000名の教員と2万人の学生が在籍する同学のネットワーク環境を支えているのは、2023年に設立された「情報戦略機構」と総務部に所属する「情報企画課」です。今回は、公共機関において一般的なインターネット分離のシステムから、Netskopeを取り入れたシステムに切り替えた背景と導入経緯、導入後の効果についてお伺いしました。
国立大学法人 千葉大学(以下、千葉大学)は、11の学部や大学院、関連施設を持つ大きな組織です。学内には教員や学生たちが利用する膨大な数のコンピュータ端末やネットワークがあり、それを情報戦略機構や総務部情報企画課が管理しています。
これまで千葉大学では、セキュリティ確保の観点から学内の事務システムに「インターネット分離」を導入していました。事務職員の通常業務はFAT端末で行い、インターネット接続に関してはVDIを使うという手法です。公共機関ではスタンダードともいえるシステム構成ですが、一方でインターネット接続のたびに専用環境を仮想デスクトップで立ち上げ、認証を切り替えるのは手間がかかります。
そこで、利用していたVDIの利用期間(5年間)が終わるタイミングに合わせて、インターネット分離に依存しないシステムの構築を検討することになりました。総務部情報企画課 事務情報係 係長 西川嘉昭氏は、「インターネット分離の環境はセキュリティ的には強固であったものの、ユーザーからは『利便性がよくない』との評判でした」と振り返ります。
さらに、インターネットを業務に利用する機会が増えていた業務環境の変化も、インターネット分離から脱却するきっかけとなりました。西川氏はこのように説明します。「メールだけではなく、大容量ファイルの受け渡しや、サイトから書類をダウンロードするといったやりとりも頻繁に発生するようになりました。インターネットの利用が増加したことで、従来のシステムに対する利用者の不満がより溜まってしまったと思います」。
当時、DLPを日本語でできるのはNetskopeだけでした。またMicrosoft365の利用が増えることを見越して、CASB機能があることもNetskope選定の理由になっています
インターネット接続を簡単に、そして安全に行うための新しいソリューションを探し始めた西川氏。実は最初に検討した製品はNetskopeではなかったといいます。「2021年の初旬から情報収集をはじめたのですが、当初は別の製品に目を付けていました。Netskopeを知ったのは2021年の夏頃で、情報戦略機構 機構長の今泉教授から紹介されたのがきっかけです」。
千葉大学の副理事で、情報戦略機構 機構長(CIO)の今泉貴史氏は、当時についてこう振り返ります。「立場上、情報収集のため展示場などに参加する機会が多く、その後1日に何百通もメールを受け取ります。そうしたなかでNetskopeのことを知り、西川さんに紹介しました」。
その後、3製品に候補を絞り、入札を経てNetskopeの導入が決定しました。選定の決め手は入札価格だけではありません。「当時、DLPを日本語でできるのはNetskopeだけでした。またMicrosoft365の利用が増えることを見越して、CASB機能があることもNetskope選定の理由になっています」。
コロナ禍をきっかけに千葉大学でもリモートワークが増えていましたが「自宅パソコンからだとVPNがつながらない」といったトラブルが発生するたびに対応するのも、西川氏をはじめとする事務情報係の負担になっていたそうです。
こうした課題の解消を期待して、導入が決まったNetskope。2022年の1月にシステムの移行が完了しました。
ユーザーからの評判はとても良いです。端末を起動して、Netskopeにサインインすればそのままインターネットが使えますから。
現在、千葉大学ではすべての事務職員がNetskopeを利用して業務を行っています。懸案事項だったインターネット接続の利便性は大きく向上し、ファイル共有なども容易になりました。「ユーザーからの評判はとても良いです。端末を起動して、Netskopeにサインインすればそのままインターネットが使えますから」(西川氏)。
リモートワークも容易になりました。今泉氏はこう語ります。「職員が使う端末もノートパソコンにしたため、持ち帰れば自宅でリモートワークができます。他の大学でも徐々にノートパソコンの導入を進めているようですが、すべての端末にリモートアクセスを認めているところは、まだ少ないと思います」。
管理側にとっても、大きなメリットがありました。たとえばアクセスのブロックやマルウェアの検出など、さまざまな情報をコンソール上で一括確認できるようになったことも導入効果のひとつです。ユーザーからの問合せや要望を受けて、サイトへのアクセスを許可する設定などもスムーズにできるようになりました。
また、従来のVDIではファイアウォールなどのルールを自分たちで設定する必要がありましたが、「大学の職員は3年ぐらいで入れ替わるため、そのたびにやり方を伝えるのも大変でした。その点、Netskopeは設定がわかりやすいため、運用が楽になったと思います」と西川氏は振り返ります。
業務のほとんどがクラウド環境になるなかで、セキュリティ管理をどうしていくか、シャドーITや個人アカウントの利用といった問題をどう管理するかなども、今後検討していく必要があります。
千葉大学では、事務方の職員が感じていた不満は解消され、利便性とセキュリティが向上しました。一方で、学内にはまだ6,000人の教員と2万人の学生がいます。「これらの人たちが使う端末も、セキュリティを強化しなくてはなりません。とくに教員は個人情報などのデータが漏えいしないように対策が必要です。全員の端末でNetskopeを使えるようにするのは現実的ではないため、良い案がないか模索中です」と今泉氏は話します。
総務部情報企画課 事務情報係 技術職員の長谷川直也氏は、別の面からの課題を指摘します。「今後はSaaS製品が事務業務のベースになってきます。Microsoft365の利用はだいぶ進んでいますが、クラウドストレージ(BOX)の業務利用も準備しているところです。業務のほとんどがクラウド環境になるなかで、セキュリティ管理をどうしていくか、シャドーITや個人アカウントの利用といった問題をどう管理するかなども、今後検討していく必要があります」。
時代の流れを敏感に取り入れ、業務に生かしている千葉大学。セキュリティと利便性をさらに両立させるため、関係者一同の取り組みが続いています。